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DYANNE THORNE SPEAKS
ダイアン・ソーン インタビュー(抄訳)PART-1
当コーナーは、イギリスMidnight Media発行の「イルザ・クロニクル」(THE ILSA CHRONICLES)に掲載されたダイアン・ソーンのインタビューをベースに、大幅に加筆して再構成した。イルザ本の決定版ともいえる同書は、各作品の詳細な解説に始まり、他のナチ映画との関連、果ては実現せずに終わった『イルザ対ブルース・リー』の企画(注1)まで紹介されている充実っぷりで、ファンなら必携の一冊といえよう。
注1:イルザ対ブルース・リー
エクスプロイテーション映画界ではありがちな話だが、「イルザ」シリーズ2作目『アラブ女地獄/悪魔のハーレム』の製作中、ダイアン・ソーンとCinepix(カナダの映画会社)との関係はえらく悪かった。アフレコのギャラを払うの、払わないのといった話でモメていたのだが、当時のダイアン・ソーンにとってその金が死活問題だったであろうことは、この後のインタビューを読んでもらえればわかる。しかし、『アラブ女地獄』が『ナチ女収容所/悪魔の生体実験』を越えるヒットとなったため、Cinepixはダイアン・ソーンと異例の5ヶ年契約を結ぶことを決心する。製作予定本数は10本。ダイアン・ソーンが作り上げた「イルザ」のキャラクターあってこその話だが、ぶち上げられた企画はどれもメチャクチャ。『イルザ対ドラゴン』(正式には『イルザ対ブルース・リー/バミューダ・トライアングルの死闘』)もその一本で、なんでも実際に本名を「ブルース・リー」に改名したカラテ俳優(誰?)が出る予定だったそうな。他にも『イルザ対食人大統領アミン』といった、聞いてる方がせつなくなるような企画がいろいろあったが、もちろん全部ポシャった。予定の狂ったダイアン・ソーンがやむなく出演したのが、ジェス・フランコ監督の『女体拷問人グレタ』だったというわけ。

【 『ナチ女収容所/悪魔の生体実験』について 】

■初めて『ナチ女収容所/悪魔の生体実験』の脚本を読んだときの感想などから聞かせてください。

ダイアン・ソーン(以下DT):そもそも、私はイルザ役で呼ばれたわけじゃなかったの。『悪魔の生体実験』の製作者たちは、“ブッヒェンヴァルトの雌犬”ことイルゼ・コッホ(注2)みたいな、180センチもあるような大女をイメージしていたし(ダイアン・ソーンは実は小柄だ)。私にオファーされたのはほんの端役だった。
注2:Ilse Koch (1906-1967)
ブッヒェンヴァルト収容所長カール・コッホの妻。刺青のあるユダヤ人の皮で『我が闘争』を装丁したり、ランプシェードを作ったりしたほか(写真)、飼い犬を女囚にけしかけて遊んだりもしていた(本当)。所長の妻とはいえ、なんで趣味の工作用に人皮が手に入れられたかというと、ブッヒェンヴァルト勤務のナチ医者が愛人だったからである。イルゼが色情狂だった、という噂はここに端を発する。イルゼの趣味は乗馬で、収容所を駆けめぐりながら、目についた囚人を鞭でブッ叩いたり、轢いたりしていたとも言われるが、それは普通「乗馬」とは言わないと思う。旦那のカールは、所長の立場を利用してせっせと金儲けに励んだのがばれ、終戦前にSS法廷で裁かれて死刑。イルゼは戦後、国際法廷で終身刑を言い渡されたが4年に減刑され、それもほとんど服役せずに釈放されてラッキーと思ったのも束の間、こんどは国内の法廷で裁かれてやっぱり終身刑。ガッカリしたイルゼは1967年に刑務所で自殺した。

ブッフェンヴァルト収容所については
http://www.scrapbookpages.com/Buchenwald/index.htmlを参照のこと。
→写真は法廷で証言するイルゼさん。態度デカすぎ。

blood_sabbathDT:あたしが受けたのは端役のオーディションだったんだけど、そのとき、脚本を見て「こんな端役の台本読みはイヤ。主役のセリフで試させて頂戴」って言ったわけ。そのときは脚本をパラパラめくっただけだったけれど、それでもイルザの人物造形は見事だと思ったし、それに、この役はあたしに向いている、これはチャンスだ、と感じたの。何がチャンスかって、それまで出ていた映画、たとえば『POINT OF TERROR(71)』で演じた役とか、『BLOOD SABBATH(72)』で演じた役(魔女集団の女王)にもダークサイドは確かにあったんだけど、両方とも言ってみればお色気映画でしょ、『悪魔の生体実験』は、そういったお色気映画の添え物キャラから脱却するチャンスだったのよ。脚本に書かれた役とあたしとでは身長も体型も違ったけれど、監督のドン・エドモンズは「君には獅子のハートがある!」って言って採用してくれた。ドンは素晴らしい監督で、『悪魔の生体実験』はまさに彼の生み出した傑作ね。
 イルザ役を演じるにあたっては、自分自身をより大きく、出来る限りグラマーに見せるように気を使ったわ。みんなグラマーな女は好きでしょ? 観客が興奮するようなキャラが実は残忍無比、というのは、最初から恐ろしげなキャラが出てくるより効果的だと思ったの。うまく演じられたと思うわ。
 もちろん、あたしはイルゼ・コッホを褒め称えようとしたわけじゃない。ヒトラーは大嫌い。やったことも考え方も、何もかも。あたしとイルザを同一視する人が多いけど、それは役作りがうまくいったってことだと思ってる。くどいようだけど、あたし・イコール・イルザじゃない、ってことはきちんと言っておきたいわね。

■スクリーン・テストの様子をもっとくわしく教えてください。

dyanne DT:スクリーン・テストじゃなくて、ただの台本読みよ。製作者たちのいる会議室でね。その時はたまたま、ちょっと「イルザ」っぽい格好をしてたんだけど、それも良かったのかもね。当時、あたしはリムジン運転手のアルバイトをしていて、オーディション当日も仕事があったから、運転手の制服を着たまんまだった。タイトなパンツに大きなブーツ、ミリタリー風のダブルのジャケットの上にエナメルのコートを羽織って、エナメルの手袋をしていて。帽子もエナメル。
 セリフ読みが終わると、製作者たちが「ちょっと席を外してもらえるかな」って言ったので、あたしは外に停めてあったリムジンで待った。もう夜の7時近かったわね。というのも、その日は一日中オーディションをやってて、あたしは最後の1人だったから。リムジンで脚本を読み返していると、スタッフがやってきて言ったわ。「部屋に戻ってくれないか。話がしたいから」
 戻ってもう一度セリフを読むと、またまた外で待つように言われて。最後にまた部屋に呼び戻されて、こう告げられたの。
「イルザ役を君にやってもらいたい。やってくれるかね?」
 あたしがイルザ役に決定した瞬間よ。結局スクリーン・テストはなかった。セリフを読んだだけで、その日のうちに決まってしまったの。イルザ役のオーディションは一週間続いていたというのに! きっと、オーディション続きで製作者たちも飽きちゃってたのね(笑)。

■そのときは、やっぱり映画と同様、ドイツ訛りで台本読みをされたんですか?

shewolf DT:そうよ。いろんな訛りでしゃべるのは得意技なの。ほとんど世界中の訛りでしゃべったことがあるわ。イルザ役が獲得できた理由の一つはそれね。他にもあたしは銃器の扱いができたし、乗馬もできたし……乗馬は人生そのものといってもいいくらい好き。体を動かすのは今でも大好きだし。肉体的、精神的にイルザ役に求められるタフさが、あたしには備わっていた。
 台本読みが終わると、あたしは「うちに帰ってエージェントに相談しないと」と言ったんだけど、製作者たちにこう告げられたの。もしキミが本当にイルザ役をやりたいなら、それはもう君のものだって。
 あたしは、本当に、イルザ役がやりたかった。
 さっきも言った通り、役者としてステップアップするチャンスだったから。

■完成した『悪魔の生体実験』を最初に観たときの感想は?

DT:いろいろショックを受けたわ。あたしの知らない、後から付け加えられたシーンが沢山あったし。
 最初のときは、親友で、『パピヨン』にも出ていた俳優ヴァル・アヴェリーと観たの。ヴァルの仕事は尊敬していたし、そのときあたしにはエージェントがいなかったから(オーディションのころにいたエージェントは、その翌週にはもう廃業しちゃったし……)、ヴァルに映画を観せて、あわよくば業界関係者に紹介してもらおうと思ってたわけ。で、正直な感想を教えて頂戴、って聞いたら返事はこうよ。
「ああ胸クソ悪い。この映画はゴミクズだ。うんこだ。こんな映画はどこでも上映しちゃいかん。フィルムは焼いてしまえ。君のキャリアももうおしまいだ。誰もこんな映画には足を運ばんよ」
 ヴァルはあたしの才能を認めてくれていると思っていたから、この言葉には打ちのめされたわ。……仕方がないから、今度は別の友達で、ブロードウェイの演出家をやってる人を連れていったの。この人は、ひどい、ひどい、ひどい手紙を書いてきて、こうぬかしたわ。
「一体全体どうしたらこんな映画が作れるんだ? おまけにイルザの役を演じるなんて、あんたは一体どういう最低の人間なんだ?
 今になってみれば、浅はかでバカな考えだと思うけれども、『悪魔の生体実験』で、あたしはいい女優だということを示したかった。それに、あたしにとっては、イルザはあくまでも一つの役に過ぎなかった。ところが、観た人はそれと逆に、あたし本人の邪悪さがイルザ役ににじみ出ていると思ったってわけ(笑)。みんなが物事をどう見るのか、よく分かったわ。
『悪魔の生体実験』は、別にナチの存続を謳ってる映画じゃない。映画の大部分は残酷な真実をベースにしているし、そもそも世界はいつだって残酷な話に満ちあふれてるでしょ。それを表現した映画なわけ。「軽々しく扱ってはならない題材を、センセーションを煽るためだけに用いた」という批判もあるけれど、あのね、映画に描かれているような残虐行為は本当にあったのよ。ナチの医者は本当に人間をモルモットにしていたじゃない! 全部記録に残ってるわよ。
もちろん、製作者側にセンセーションを煽る意図がなかったとは言わない。だけど『悪魔の生体実験』の元ネタは事実だし、それに大体、俳優と監督は脚本家が書いたものをスクリーンに置き換えるのが仕事。そりゃあ、バーブラ・ストライサンドとかエリザベス・テイラーみたいな大物になれば、「こんな映画になんか出ないわよ」とか言えるでしょうよ。でもそうなるにはキャリアの転機になるような作品が必要なの。バーブラだったら舞台の『あなたには卸値で I CAN GET IT FOR YOU WHOLESALE』とか『ファニー・ガール』がそれにあたると思うけど、とにかく「これを逃したらチャンスはもう来ない。やらなくちゃ」(注3)って作品がね。
注3:「これを逃したらチャンスはもう来ない」
女優ダイアン・ソーンのキャリアは長い。タップ・ダンサーとして初舞台を踏んだのはなんと8歳のとき。13歳ぐらいの頃にはプロの歌手として舞台に立っていた。エキストラとして映画デビューを果たしたのはその2年後、15歳のときである(全米俳優協会に加入したのもそのとき)。その後、ニューヨーク大学でリー・ストラスバーグに師事し(!!)、紆余曲折を経てやがてカリフォルニアへと渡る。ティンゼルタウンにやってきたダイアンは、ドライブ・イン映画、テレビ番組などの脇役(『宇宙大作戦』第49話「宇宙犯罪シンジケート」にも出演しているので、トレッキーの人は血眼で探してくれたまえ)をこなしつつ、長い間チャンスをうかがっていたのである。『悪魔の生体実験』で世界的にその名をとどろかせたのは1974年。実にダイアン・ソーン42歳のときであった。

DT:『悪魔の生体実験』でイヤんなっちゃうのは、スタッフの半分が偽名でクレジットされていること! そんな話、聞いてなかったわ。こっちは「ダイアン・ソーン主演」って本名でデカデカと出ちゃって。正式な契約も交わしてたし、本名を出すのは当たり前だと思ってたんだけど……。ウルフ役のグレッグ・クノッフみたいなわずかな例外を除くと、残りの半分は偽名だった。ああ、もちろん、監督のドン・エドモンズはちゃんと本名。
 それはともかく、『悪魔の生体実験』の製作中は、みんなこの映画がいいものになると信じてた。いいチームだったわ。ヘア・ドレッサーもメイクアップ・アーチストもイルザの見栄えを良くしてくれたし、衣装係は、あたしの体をそれなりに見られるように工夫してくれた。それに、あたしは、脚本に書かれている以上にイルザに命を吹き込んだと思う。だからこそ、「イルザ」はシリーズ化されることになったのよ。

■『悪魔の生体実験』で、本編からカットされたシーンはありますか? あるとすれば、どういったシーンなんでしょう?

DT:カットされたシーンは大量にあったけど、別に残虐だからカットされたってわけじゃなくて、ほとんどの場合、ただ不要だからカットされたって感じね。カットされたって言えば『女体拷問人グレタ』……この映画は他にも沢山題名があるけど、ジェス・フランコ監督のやつよ……あの映画だって、最初考えていたものと、完成した映画は大幅に違うの。グレタが怒り狂うシーンがあるけど、監督はグレタが一線を越えた感じでやってくれ、って言うのよ。だからそうしたわ。ところが、完成してみると、そのシーンは時間の都合でほとんどカットされちゃった上に、シーンの焦点はリナ・ロメイ(当時のジェス・フランコ夫人)に移っちゃったもんだから(ジェス・フランコの映画はいつもそうだけどな)、あたしは単にオーバー・アクティングしているようにしか見えない。もっとじっくり、グレタが怒り狂う過程が描かれているはずだったんだけど。
 でもこういったことは仕方がないわね。自分じゃどうしようもないんだから。あたしにできるのは、監督が自分の出演しているシーンを守ってくれるように祈るだけ。バカバカしいけど、映画が完成した時に、自分の出演シーンが1分残っていたら、そこが自分の勝負どころだってわけ。
 でも、自信を持って演じ、セリフもばっちり、って場面が残っていないと、それはもうわけが分からないわ。本当にガッカリする。そうなってくると、何ができるのか、何をすべきかを必死に考えるよりも、何をしない方がいいのかを考えた方がマシって気分になるわね。

(『アラブ女地獄/悪魔のハーレム』の話へと続く。お楽しみに)

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